報告書
ウモ濃縮溶液のアデニン誘発性腎障害モデルラットを用いた腎機能評価および安全性評価試験
試験委託者:株式会社APAコーポレーション
2021年 4月 30日
本研究実施報告書で使用する用語
Mean | 平均値 |
S.E.M(standard error of the mean) | 標準誤差 |
P.O.(per os) | 経口投与 |
1 試験概要
1.1 試験表題
ウモ濃縮溶液のアデニン誘発性腎障害モデルラットを用いた腎機能評価および安全性評価試験
1.2 試験番号
21775
1.3 試験目的
ウモ濃縮溶液を28日間経口投与することによりアデニン誘発性腎障害への影響を比較検討
した.また被験物質の安全性評価も実施した.
1.4 試験委託者
株式会社APAコーポレーション
1.5 試験実施日程
試験開始日 : 2021 年 3 月 1 日
動物入荷日 : 2021 年 3 月 1 日
検疫及び馴化終了日 : 2021 年 3 月 8 日
操作開始日 : 2021 年 3 月 8 日
操作終了日 : 2021 年 4 月 5 日
最終報告書(案)作成日 : 2021 年 4 月 22 日
最終報告書作成日(試験終了日) : 2021 年 4 月 30 日
1.6 試験責任者及び試験担当者
<試験責任者>
松浦正樹
<動物飼育作業担当>
松浦正樹,井戸田真紀子,河合和弘
<検疫管理責任者>
光永総子
<被験物質調製及び投与担当>
松浦正樹,井戸田真紀子,河合和弘
<一般状態観察担当>
松浦正樹,井戸田真紀子,河合和弘
<体重測定担当>
井戸田真紀子
<採尿及び採血担当>
松浦正樹,井戸田真紀子
<尿及び血液検査担当>
田中春樹(株式会社 DIMS 医科学研究所)
<データ処理担当>
松浦正樹,井戸田真紀子
1.7 動物倫理
「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(平成18年6月1日 日本学術会議),「動
物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号,平成23年8月30日改正:法律
第105号),「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(平成18年4月28
日環境省告示第88号)に基づいた,「株式会社アイテックラボにおける動物実験に関する指
針」(平成23年12月1日)に従い,動物実験を実施する.本試験は,上記指針に基づいて
株式会社アイテックラボ動物実験倫理委員会において審査・承認された.
1.8 バイオセイフティ
世界保健機構(WHO)による「Laboratory biosafety manual(実験室バイオセイフティ指針)
及び「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カル
タヘナ法)」に基づいた,「株式会社アイテックラボにおけるバイオセイフティに関する指
針」(平成23年12月1日)に従い,動物実験を実施する.本試験は,上記指針に基づいて
株式会社アイテックラボバイオセイフティ委員会において審査・承認された.
2 被験物質,媒体及び試薬
2.1 被験物質
① 名称 : ウモ濃縮溶液(珪素含有量 8000~9300ppm)
② 提供者 : 株式会社APAコーポレーション
③ 入手量 : 450mL×1本
④ 入手年月日 : 2021年2月25日
⑤ 性状または剤形 : 無色透明の液体
⑥ 保管条件 : 室温保管
⑦ 保管場所 : 被験物質用室温保管庫
⑧ 使用後の残余物質の処理 : 残余の被験物質は廃棄する.
2.2 媒体
① 名称 : 注射用水
② ロット番号 : 8A93N
③ 製造元 : 株式会社 大塚製薬工場
④ 保管条件 : 室温(開封後は冷蔵保管)
⑤ 保管場所 : 被験物質用室温保管庫または被験物質保管用冷蔵庫
2.3 試薬Ⅰ
① 名称 : アデニン硫酸塩
② ロット番号 : SKF5159
③ 製造元 : 富士フィルム和光純薬株式会社
④ 保管条件 : 室温保管
⑤ 保管場所 : 被験物質用室温保管庫
2.4 試薬Ⅱ
① 名称 : 0.5w/v% メチルセルロース400溶液,滅菌済(以下MC)
② ロット番号 : KCF7015
③ 製造元 : 富士フィルム和光純薬株式会社
④ 保管条件 : 冷蔵保管
⑤ 保管場所 : 被験物質保管用冷蔵庫
3 試験系
3.1 動物種,系統及び性別
ラット,Slc:Wistar,SPF,雄
3.2 供給源
日本エスエルシー株式会社(静岡県浜松市)
3.3 週齢及び入荷匹数
① 入荷時週齢 : 6週齢
② 入荷匹数 : 13匹
③ 被験物質投与時の週齢 : 7週齢
3.4 検疫及び馴化方法
入荷後に8日間の検疫・馴化期間を設けた.
検疫・馴化期間中に,一般状態を1日1回観察し,動物入荷の翌日及び検疫・馴化終了日に
体重を測定した.
検疫・馴化期間中の一般状態と体重成績で順調な発育が認められた健康な動物を試験に使用
した.
3.5 群分け方法
馴化終了日の体重に基づいて,コンピュータを用いた完全無作為抽出法により各群の体重
の平均が等しくなるよう4群に群分けした.
3.6 試験系の識別
① 動物は油性インクにより識別した.
② ケージは,「馴化期間中」,試験番号,入荷年月日,入荷時週齢,動物種,性別,ケージ
番号,検疫番号を記載したケージカードにより識別した.
3.6.1 群分け後
馴化終了日の体重に基づいて,コンピュータを用いた完全無作為抽出法により各群の体重
の平均が等しくなるよう4群に群分けした.
3.7 安楽死の方法
試験終了後の動物は,麻酔下の全採血により安楽死させた.
4 動物管理
4.1 飼育室
Ⅵ号エリア Ⅳ号室(クリーン飼育室)
4.2 飼育ラック及び飼育ケージ
① ケージ : ステンレス製ハンガーケージ (32.0D×20.5W×19.5H cm)
② ケージ当りの動物数 : 3匹/ケージ,1匹/代謝ケージ(採尿時)
③ 糞受け皿には吸水紙(テックエリート,EPトレーディング株式会社)を入れて使用した.
④ 糞受け皿は週 1 回以上交換した.
4.3 飼育環境条件
① 温度 : 18〜28℃
② 相対湿度 : 30〜80%
③ 照明時間 : 12 時間 (7: 00〜19: 00)
4.4 飼料及び飲料水
4.4.1 飼料
市販固型飼料[MF;オリエンタル酵母工業株式会社(東京都板橋区)]を自由に摂取させた.
4.4.2 飲料水
飲料水は上水道水(岐阜県海津市海津町)を給水瓶により自由に摂取させた.
5 群構成及び投与方法
5.1 群構成,被験物質,投与用量,投与液量及び例数
5.2 媒体,被験物質及びアデニン投与液の投与方法
① 投与回数及び投与期間 : 媒体及び被験物質は1日1回の頻度で28日間反復投与した.
アデニンは媒体及び被験物質投与30分後に投与した.投与は8:00〜12:00に実施した.
② 投与方法 : ディスポーザブルシリンジ及びディスポーザブル経口ゾンデを用いて経口
投与した.
③ 投与方法の選択理由 : 正確な量を確実に投与できる方法であるため.
④ 投与液量の算出 : 最近の測定日の体重に基づいて,個体別に算出した.
6 被験物質及び試薬の調製及び保管
6.1 被験物質
ウモ濃縮溶液投与液は,調製済みのため原液を使用した.
6.2 アデニン投与液
① アデニン投与液は,アデニン硫酸塩の原末 600 mgを電子天秤で量り取り, 0.5%MC溶液
に懸濁後,全量 6 mLとなるようメスシリンダーで定容した.
② 調製は週 2 回行い,小分けし冷蔵保管した.
6.3 残余被験物質の処置
使用後の調製溶液は廃棄した.
7 操作項目
7.1 一般状態及び生死の観察
試験期間中は,全例について一般状態及び生死を1日1回観察した.
7.2 体重
入荷翌日,馴化終了日及び被験物質投与後は週1回体重を測定した.
7.3 採尿
① 被験物質投与前日,被験物質投与14日目及び被験物質投与終了日から1晩代謝ケージに
て個別に尿を採取した.
② 採取した尿は尿量を測定後に1700×g,4℃,15 minで遠心して上清を採取し,冷凍保管し
た(500μLは血液生化学的測定に使用し,残りは追加解析用に保管した).
7.4 血液及び血漿採取
① 被験物質投与前及び被験物質投与15日目に無麻酔下で頸静脈より,抗凝固剤としてヘパ
リン注射液通したシリンジにて採血した.採取した血液は,1700×g,4℃,15 minで遠心
分離して血漿を採取し,冷凍保管した(追加解析用).
② 被験物質投与終了翌日にはケタミン(ケタラール®筋注用 500 mg,三共株式会社)0.8 mL/kg
及びキシラジン(セラクタール®2%注射液,バイエル株式会社)0.8 mL/kgをそれぞれ筋肉
内投与で麻酔し,下大動脈より全採血して安楽死させた.
③ 採取した血液の一部はEDTA-2Kを含む採血管に約2 mL採取した(血算検査用).
④ 残りの血液は,ヘパリンナトリウムを含む採血管に採取し1700×g,4℃,15 minで遠心分
離して血漿を採取し,冷凍保管した(500μLは血液生化学的測定に使用し,残りは追加解析
用に保管した).
7.5 尿測定
冷凍保管した尿は,外注(株式会社DIMS医科学研究所)にて測定した.
測定項目及び測定法は以下の通りである.測定機器は,日立自動分析装置3500(㈱日立製作
所)を用いた.
7.6 血液生化学的検査(A1及びA2群)
① 冷凍保管した血漿は,外注(株式会社DIMS医科学研究所)にて測定した.
② 測定項目及び測定法は以下の通りである.測定機器は,日立自動分析装置3500(㈱日立製
作所)を用いた.
7.7 血算検査(A1及びA2群)
採取した血液は,外注(株式会社DIMS医科学研究所)にて測定した.
測定項目及び測定法は以下の通りである.測定機器は,多項目自動血球分析装置(XT-
2000i,シスメックス株式会社)を用いた.
試験結果
1) 体重
ウモ濃縮溶液を28日間投与したラットの体重推移をFig.1,Table 1 及びAppendix table 1
に示した.媒体単独群及びウモ濃縮溶液単独群の各測定日における平均体重について
は,いずれも順調な体重増加を示した.アデニンを投与した媒体群及びウモ濃縮溶液群
では,2週目以降に体重増加が見られなかった.
2) 尿測定(尿量,クレアチニン及び無機リン)
ウモ濃縮溶液を28日間投与したラットの尿測定結果をFig.2,Table 2 及びAppendix table
2に示した.尿量は,媒体単独投与群及びウモ濃縮溶液単独群では,2及び4週目を通し
て,ほぼ同程度であった.一方,アデニンを投与した媒体群及びウモ濃縮溶液群におい
て,2週目では媒体群で投与前値の約5倍,ウモ濃縮溶液群で投与前値の約4倍の増加
が見られた.尿中クレアチニン量は,媒体単独投与群及びウモ濃縮溶液単独群では,2
及び4週目を通して,ほぼ同程度であった.一方,アデニンを投与した媒体群及びウモ
濃縮溶液群では,2週目では媒体群で投与前値の約6倍,ウモ濃縮溶液群で投与前値の
約4倍の減少が見られた.尿中無機リン量は,個体差が大きいため,ことにウモ濃縮溶
液単独群及びウモ濃縮溶液+アデニン群の投与前値が見かけ上の低値を示した.2及び4
週目では、アデニン投与群及び非投与群でクラスターが見られ,アデニン投与群では尿
中無機リン量(クレアチニン非補正値)の顕著な低下が見られた.
尿中無機リン量クレアチニン補正値(以下IP補正値)では,投与後4週目においてアデ
ニン投与群が非投与群に比べ高値傾向を示した.この時,ウモ濃縮溶液投与群におい
て,その非投与群と比べアデニン投与によるIP補正値上昇に対する軽微(23%)な抑制傾向
が見られた.
3) 血液生化学的検査
ウモ濃縮溶液を28日間投与したラットの血液生化学的検査をFig.3-1~3-4,Table 3-1,3-
2,Appendix table 3-1及び3-2に示した.
媒体単独群及びウモ濃縮溶液単独群の血中AST,ALT,ALP,T-BIL,BUN,CRE,
GLU,TP,ALB,A/G,LAC,IP,CA,MG,NA,K,CLの各測定項目を比較して,い
ずれも2群間に顕著な差は見られなかった.一方,ウモ濃縮溶液群において,肝臓脂質
代謝関連マーカのγ-GTPは23%,血中脂質代謝産物のTGは 32%,T-CHOは14%及びPL
は13%,それぞれ媒体群に比べ低値であった.
4) 血算検査
ウモ濃縮溶液を28日間投与したラットの血算検査をFig.4,Table 4 及びAppendix table 4
に示した.媒体単独群及びウモ濃縮溶液単独群の血中RBC,HCT,HGB,PLT,WBCの
各測定項目を比較して,いずれも2群間に顕著な差は見られなかった.
まとめ及び考察
本試験では,アデニン誘発性腎障害に対する被験物質・ウモ濃縮溶液の効果を検討するため,
腎障害ラットにウモ濃縮溶液を28日間連続経口投与し,尿量,尿中クレアチニン及び無機リンを
測定した.同時にウモ濃縮溶液の安全性に関する非臨床試験の一環として血液生化学的検査及び
血算検査を実施した.
その結果,投与期間を通じて,媒体及びウモ濃縮溶液共にいずれの個体にも死亡は認められず,
一般状態においても異常は認められなかった.
血液生化学的検査及び血算検査の結果からはウモ濃縮溶液に毒性は認められなかったため,ウ
モ濃縮溶液の無毒性量は6 g/kg上回ると推察された.
なお,ウモ濃縮溶液投与で4種の脂肪代謝関連マーカーが低値を示したことから,ウモ濃縮溶
液による脂肪代謝系亢進効果の可能性が示唆された.
また,アデニンを投与することにより,アデニン投与開始後より尿量が増加し,投与後半頃に
は体重増加が見られなくなった.同時に,尿中クレアチニン及び無機リン濃度も共に低下し,ア
デニン誘発腎障害が惹起された.尿中無機リンのクレアチニン補正値(IP補正値)の比較から,
ウモ濃縮溶液投与によるIP補正値の軽い抑制傾向が示唆されたことから,ウモ濃縮溶液の腎障害
予防・改善効果の可能性が伺えた.
今回の試験では実験頭数が少ない上に個体差も大きく,被検物質の上記作用を訴求するには信頼
度が低い.今後,試験匹数を増やして被検物質の機能・作用を確認・検証することが望まれる.