論文種別 (原著)
水溶性ケイ素摂取時の血圧およびストレス改善作用
Improvement of blood pressure when water-soluble silicon is ingested
神保太樹(1、岡田憲己(2
1) 株式会社令和メディカルリサーチ医学研究所
2) 株式会社APAコーポレーション
キーワード:水溶性ケイ素、機能性成分、生活習慣病、血圧、ストレス
英文キーワード:Water-soluble silicon, functional ingredients, lifestyle-related diseases, blood pressure, stress
概要:ケイ素は多様な形態があり、結晶性ケイ素と非結晶性ケイ素に分けられることがよく知られている。食品添加物や健康食品などとして、我が国で用いられているケイ素は非結晶性ケイ素であり、水溶性のものである。人体においては、骨や関節、血管、毛髪などに含まれており、唾液による歯垢清掃や、各種のターンオーバーなどに関わっている。概ね、成人で一日30mg前後のシリカが消費されるが、ケイ素は生体内合成ができないため、外界から取り入れなければならない。玄米やあわ、バナナやレーズンなどにケイ素はよく含まれているほか、今日では健康への作用を期待して、飲料水などに添加した健康食品としても市販されている。しかし健康への作用を期待するとはいえ、ほとんどは動物試験によってのみ人体への効能が予想されているにとどまっている。動物試験では、主として骨や血管への影響が知られているが、例えば高血圧を抑制し関連する遺伝子発現を改善するといわれている。しかしながら人における効果についてはほとんどなく、ケイ素に期待できるとされる多様な機能性の研究は、今後十分なエビデンスを集める必要があると言える。
このような背景を踏まえて、本研究では、対象者の血圧の変化や、ストレス反応や疲労感、自律神経バランスの変化などを検討した。また安全性についても検討するため、血液検査も実施した。その結果として有害事象なく血圧およびストレス反応についての改善が観察されたので報告する。
英文概要: It is well known that silicon has a variety of forms and can be divided into crystalline and non-crystalline silicon. Silicon used in Japan as a food additive and health food is amorphous silicon, which is water soluble. In the human body, it is contained in bones, joints, blood vessels, hair, etc., and is involved in the cleaning of dental plaque by saliva and various types of turnover. Approximately 30 mg of silica is consumed per day by adults, but silicon cannot be synthesized in the body, so it must be taken in from the outside world. Silicon is commonly found in brown rice, millet, bananas, raisins, etc., and is also available today as a health food added to drinking water, etc., with the expectation of health benefits. However, most of the expected health benefits are based on animal studies only. In animal studies, the effects on bones and blood vessels are mainly known, and it is said to suppress hypertension and improve related gene expression, for example. However, little is known about its effects on humans, and it is necessary to gather sufficient evidence for research on the various functions that silicon is expected to have. Against this background, this study examined changes in blood pressure, stress response, fatigue, and autonomic nervous system balance in subjects. Blood tests were also conducted to examine safety. As a result, improvements in blood pressure and stress reaction were observed without adverse side effects.
序文
ケイ素は多様な形態があり、結晶性ケイ素と非結晶性ケイ素に分けられることがよく知られている。食品添加物や健康食品などとして、我が国で用いられているケイ素は非結晶性ケイ素であり、水溶性のものである。
人体においては、骨や関節、血管、毛髪などに含まれており、唾液による歯垢清掃や、各種のターンオーバーなどに関わっている。概ね、成人で一日30mg前後のシリカが消費されるが、ケイ素は生体内合成ができないため、外界から取り入れなければならない。玄米やあわ、バナナやレーズンなどにケイ素はよく含まれているほか、今日では健康への作用を期待して、飲料水などに添加した健康食品としても市販されている。しかし健康への作用を期待するとはいえ、ほとんどは動物試験によってのみ人体への効能が予想されているにとどまっている。
動物試験では、主として骨や血管への影響が知られているが、例えば自然発症高血圧症ラットにおける高血圧を抑制し関連する大動脈遺伝子発現を改善するという報告(1,2、ケイ素摂取量が多ければ骨密度が上昇するという報告(3、骨強度を上昇させるという報告(4、ケイ素摂取によって免疫応答誘導が起こるとする報告(5、血管弛緩作用があるとする報告(6、マウスの体重増加を抑制するという報告(7,8などがある。しかし、いまだヒトに対するケイ素の生理学的な作用や、機能性について十分なデータが得られているとは言えない状況である。
このような背景を踏まえて本研究では、対象者の血圧の変化および、免役応答及びストレス反応の検討として唾液中sIgAと唾液中コルチゾールの採取を行った。(9-12 この他、アンケートとして疲労感、睡眠の評価も実施した。(13-15 さらに加速度脈波計測による自律神経分析を行った。(16 また血管への影響を検討するため、同じく加速度脈波計測による血管年齢の解析を行った。これらの実施と共に、これまでに有害事象の報告はないが、念のため血液検査も実施して安全性も再検討した。
これらによって、水溶性ケイ素の摂取による機能性について基礎的なエビデンス収集を諮り、今後の研究としてどういった分野への可能性が期待されるかを改めて検討したが、その結果として血圧の改善とストレス反応の改善が観察されたので報告する。
方法
参加者
参加者の参加基準は以下を満たすものとして公募を行った。
1)同意取得時点で20~64歳の男女
2)本調査の目的、内容について十分な説明を受け、同意能力があり、十分に理解した上で自由意思で志願し、文書で同意した者
除外基準
以下の基準を満たす者については試験対象者から除外した。
1)現在何らかの慢性疾患を患い薬物治療を受けている者
2)食品に重篤なアレルギー症状を示す恐れのある者
3)妊娠または妊娠の可能性がある者
4)他のヒト臨床試験に参加している者、または3カ月以内に他のヒト臨床試験等に参加した者
5)アルコールを過度に摂取している者
6)肝・腎・心疾患、呼吸障害、内分泌障害、代謝障害、神経障害、意識障害、糖尿病、その他疾患により、試験参加が困難な者
7)試験実施者が本試験の対象として不適当と判断した者
参加者数
本試験の参加者数は、12例(平均年齢41.08±1.73歳)、中途脱落者は0名であった。また、本試験に起因する有害
事象等の発生件数は0件であった。
方法
本試験では公募により参加者を募集した。 その後、参加者それぞれについて、試験の内容を説明し、参加に対する同意を得た上で、対象者は研究に参加した。同意が得られた後、参加者は試験食として水溶性珪素umo®濃縮溶液(株式会社APAコーポレーション提供)を1日あたり試験対象物量として約9ml、合計6週間摂食した。飲用の方法は、朝食後、昼食後、夕食後に各3mlを水またはお茶に滴下して飲用した。介入前(visit1)と介入後(visit2)に、次項に示す内容の調査を実施し、試食の前後における参加者の心身の変化について観察した。尚、調査期間中に適切に介入が成されたかや、健康状態に著しい変化があったかどうかについては、チェックシートによって管理した。すべての試験が終了した後、研究者が統計解析を実施した。
調査内容
Ⅰ 医師による問診およびアンケート等による調査
1) 氏名、性別、年齢、身長、体重、体温、試験食摂取の有無、睡眠時間、既往歴、常備薬、喫煙の有無、飲酒の有無食事等などの基礎的な問診および血圧測定
2) Visual Analog Scale(VAS)(13
疲労感の自覚調査を調査するためのアンケートとしてVAS尺度を実施した。
3)ホームズのストレス反応尺度(15
ストレスについての自覚症状を調査するためのアンケートとしてホームズのストレス反応尺度を実施した。
4) OSA睡眠調査票(14
睡眠状態を調査するためのアンケートとしてOSA睡眠調査票を用いた調査を実施した。
5)適正に飲用がなされていたかのチェックシートの結果
6)飲用中の健康状態チェックシートの結果
7)本試験終了時の感想(自由記載および択一式調査)
以上について、前後の回答を収集し集計した。
Ⅱ 唾液中ストレス物質の計測
専用計測キット(SOMA Bioscience社製SOMA CUBE)を用いて計測を実施しました。付属の唾液採取用綿棒を用いて、少量の唾液を採取した。採取した唾液内について、専用の計測用溶液に溶解し、その後、計測用チップ上に滴下した上で、光学的にコルチゾールおよびsIgAの含有量を計測した。(9-12
Ⅲ 血液検査の結果
血液採取によるデータとして以下について検討した。具体的には、総蛋白、ALP、AST、LDH、γ-GTP、総ビリルビン。LDL、コレステロール、HDL、中性脂肪、Na、K、Cl、Ca、P、Mg、尿素窒素、クレアチニン、GFR、血糖、アルブミン、HbA1c、赤血球数、白血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、MCV、MCHの値について分析した。
Ⅳ 加速度脈波計測
YKC社製TAS9VIEWにより、加速度脈波計測による自律神経バランス分析および血管年齢の推定を行った。(16
尚、それぞれの尺度の実施タイミングについて図字する。(図1)
統計解析
すべての結果の統計解析は、IBM SPSS Statistics 20.0およびそのアドオンによって解析した。また結果の解析にはウ
ィルコクソンの符号付順位検定により解析を行い、その有意水準は5%とした。
倫理的配慮
本研究はNPO 法人日本健康事業促進協会倫理審査委員会において承認された後に実施された。(承認番号20230915-1)
結果
問診及びアンケート等の結果として、ホームズのストレス反応尺度におけるストレスマグニチュードおよびストレス反応が有意に減少していた。(図2)その他の結果については有意差および傾向は観察されませんでした。また、終了後の感想としては表に示す通りの自由記載が得られた。(表1)また択一式調査については元気が出た、血圧が良くなったなどの項目については良好な体感が得られていた。(図3)
生理指標としては、拡張期血圧、収縮期血圧とも有意な減少が観察された。(図4)また、加速度脈波計測による自律神経の分析結果として、SDNNの有意な減少及びPSIの有意な上昇を観察した。(図5)
血液検査についてはMCHCおよびアルブミン、アルブミン/グロブリン比、eGFRの有意な減少およびナトリウム、カルシウムの有意な上昇が観察されましたが、何れも検査基準値内での微小な変化であり、臨床的意義はなかった。
考察
今回の結果については、6週間と介入期間が短く、12例の健常者を対象としている点で研究上の限界はあるものの、幾つかの項目については有意な改善を観察することができたと考えられた。まず、アンケートや試験終了後の体感においては、ストレス反応が有意に減少していることが観察された。水溶性ケイ素がストレスを和らげるというヒトでの報告はほとんどないが、経験的にストレスを緩和するとされていることと合致していると考えられた。また、終了後の体感においては、過半数が「元気が出た」と答えていたが、加速度脈波計測の結果によれば身体的疲労感を反映するPSI項目の有意な上昇が見られたほか、自律神経活動度を表すSDNNは有意に減少していたことから、身体的にはむしろ疲労感が上昇していた状態であると考えられた。そのような状態においても、良好な体感とストレス反応の抑制が得られたということから、特に心身の疲弊に対する主観的な改善が得られたものと考えられた。
さらに、血圧の計測においては、拡張期血圧、収縮期血圧とも有意に減少していました。動物試験でもこのような血圧降下作用は観察されており、遺伝子の調整を経て高血圧の予防ができるする他の報告と結果が合致していると思われた。本研究の対象者は、終了後の体感としても約半数が「血圧が良くなった」と回答しており、高血圧の予防や日々のケアに水溶性ケイ素が有用であった可能性が示唆された。
本研究は小規模の検討であり、その結果の解釈に限界はあるが、少数例の結果であるにもかかわらず、血圧の改善等ある程度の変化を観察することができたが、今後はさらに多数例での検討により、水溶性ケイ素の機能性について性差する必要があると思われた。
結語
本研究の結果より、水溶性ケイ素の摂取により血圧およびストレス反応の改善に繋がること可能性がある。
図表
図1 試験実施タイミング
全体の介入期間は6週間であった。
図2 ホームズのストレス反応尺度の推移
表1 終了後の自由記載文章
図3 終了後の体感についての割合
図4 血圧の推移
図5 加速度脈波計測における自律神経評価の推移
参考文献
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9)余語真夫、藤原修治 急性ストレス負荷による唾液中分泌型免疫グロブリンAの時系列的変化 生理心理学と精神生理学 29(3): 193-203, 2011.
10)山本哲郎、嶋田拡靖、山口英世 感染症とアレルギー疾患に対する唾液中の分泌型免疫グロブリン (sIgA) の防御機能およびsIgA分泌を亢進する方策 薬理と治療 49(4): 533-562, 2021.
11)新見道夫 唾液中バイオマーカーによるストレス評価香川県立保健医療大学雑誌 9: 1-8, 2018.
12)寺田衣里、山田冨美雄 唾液中コルチゾールおよびs-IgAを指標とした福島県被災児のストレス反応性の評価
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14)YAMAMOTO Y Standardization of revised version of OSA sleep inventory for middle age and aged Brain Science and Mental Disorder 10: 401-409, 1999.
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16)J. Ahn Heart rate Variability(HRV) analysis using simultaneous handgrip electrocardiogram and fingertip photoplethysmogram. AISS 13:164-170, 2013.