エビデンス

Evidence
2022/04/25
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生活習慣病合併脂肪肝における水溶性ケイ素の有効活用の検討

論文タイトル:生活習慣病合併脂肪肝における水溶性ケイ素の有用性の検討

英文タイトル: Usefulness of Water Soluble Silicon for Fatty Liver Combined with Lifestyle Related Disease

著者:福沢嘉孝1)、岡田憲己2)、神保太樹1). 

1)愛知医科大学病院;先制・統合医療包括センター(AMPIMEC)

2)DNA高機能食医学普及協会

英文著者名:Yoshitaka Fukuzawa, Kemmi Okada, Daiki Jimbo.

キーワード:ケイ素、機能性成分、肝疾患、生活習慣病、脂肪肝

英文キーワード:silica, functional ingredients, liver disease, lifestyle disease, fatty liver

概要:ケイ素は、日本珪素医科学学会の定義によれば、「優れた静菌性と浸透性、物質を吸着する浄化力、細胞の不活性や炎症を止める消炎性など、優れた特性を持っている」とされ、腸内環境の改善や血管老化の抑制に効果があるとされる。また動物試験においては、ケイ素の経口摂取によって体重の増加が抑制されることが報告されている。一方、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)などにおいては肥満との関連が強く指摘されており、食事運動療法を中心とした加療が行われている。しかし、食事運動療法の長期の治療継続は難しく、基礎疾患のない例については薬物療法も確立されていない。そこで、今回初めてヒトにおいて水溶性ケイ素が脂肪肝を改善するかをランダム化比較試験により検討したところ、体重の減少および肝機能の改善に効果を認めたので報告する。

ABSTRACT:According to the definition of the Japan Society for Silicon Medical Science, “Silicone has excellent properties such as excellent bacteriostasis and permeability, purification ability to adsorb substances, anti-inflammatory properties to stop cell inactivation and inflammation.” Silicon can be effective in improving the intestinal environment and suppressing vascular aging. Furthermore, in mice, it has been reported that oral intake of silicon suppresses weight gain. On the other hand, obesity is a high risk in lifestyle-related diseases such as nonalcoholic fatty liver disease (NAFLD). For this reason, treatment mainly on diet exercise therapy is performed. However, long-term dietary exercise therapy is difficult to continue, and pharmacotherapy has not been established. Therefore, in order to examine whether water-soluble silicon improves fatty liver in humans, randomized controlled trial was conducted for the first time. As a result, we report weight loss and improved liver function. (143 words)

緒言:ケイ素は多様な形態があり、結晶性ケイ素と非晶質ケイ素に分けられることがよく知られている。食品添加物や健康食品などとして、我が国で用いられているケイ素は非晶質ケイ素であり、水溶性のものである。人体においては、骨や関節、血管、毛髪などに含まれており、唾液による歯垢清掃や、各種のターンオーバーなどに関わっている。概ね、成人で一日30mg前後のシリカ(ケイ素)が消費されるが、ケイ素は生体内合成ができないため、外界から取り入れなければならない。玄米やあわ、バナナやレーズンなどにケイ素はよく含まれているほか、今日では健康への作用を期待して、飲料水などに添加した健康食品としても市販されている。しかし健康への作用を期待するとはいえ、ほとんどは動物試験によってのみ人体への効能が予想されているにとどまっている。動物試験では、主として骨や血管への影響が知られているが、例えばケイ素摂取量が多ければ骨密度が上昇するという報告1)や骨強度を上昇させるという報告2)、ケイ素摂取によって免疫応答誘導が起こるとする報告3)、血管弛緩作用があるとする報告4)、マウスの体重増加を抑制するという報告5,6)などがあるが、いまだヒトに対するケイ素の生理学的な作用や、機能性について十分なデータが得られているとは言えない状況である。

 ところで、生活習慣病の多くは、過度な肥満によって引き起こされることが知られている。例えばNAFLDや、非アルコール性脂肪肝炎(nono-alcoholic steatohepatitis; NASH)などの発症背景としては肥満がハイリスクであることはよく知られており、しかもこれらは糖尿病をはじめとしたメタボリックシンドロームの1形態である可能性も指摘されている。NAFLDは、脂肪肝炎や肝硬変に進行した状態までを含む病態であるが、現在の有病率は9~30%程度であり、全国で1000万人以上いると考えられている。男性は中年層、女性は高齢層に多いとされているが、その理由としてはやはり肥満の進行が挙げられる。NASHの治療プロセスとしては、基本的には食事・運動療法による減量であり、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの基礎疾患がある場合を除いて薬物利用はあまり有効ではなく、世界的にも薬物療法はコンセンサスを得られていない状況である。7) 

にもかかわらず、食事・運動療法の継続は、糖尿病教育入院の場合でも60%程度であるとされ、しかも時間経過とともに継続率が下がり、1年後に運動を継続していたのは、概ね半数程度であるという報告もある。8) 従って、食事・運動療法をサポートする補助療法は今後の重要な検討課題であると考えられる。そこで、今回我々は、経験的には知られている、ケイ素摂取時のヒトの体重の減少が実際に起こりうるかどうかや、それによって肝機能の改善が見られるかについて、ランダム化比較試験を実施したので報告する。

方法

1.対象者

本試験は、愛知医科大学病院;先制・統合医療包括センター(AMPIMEC)内において、生活習慣病を有する外来患者、メタボリック症候群合併患者、非メタボリック症候群合併患者であって画像診断で脂肪肝と判定された患者または他の肝障害が否定された脂肪肝を有する患者から公募された40名について検討を行った。(除外基準として、ウイルス性の肝炎及び肝硬変、重篤な肝機能障害(肝機能検査値が正常上限値の3倍以上)、心不全、重症ケトーシス・糖尿病性昏睡・1型糖尿病、重篤な腎機能障害、重症感染症・手術前後の患者、水溶性ケイ素に対し過敏症の既往歴のある患者、妊娠又は妊娠している可能性のある患者、代謝性肝疾患の患者、自己免疫性肝疾患の患者、肝硬変の患者、患者の同意が得られなかった場合および主治医が試験参加不適当を認めた症例については除外とした。)公募によって参加した40名は、ランダムに水溶性ケイ素摂取群と水溶性ケイ素非摂取群とに割り振られた。最終的に、水溶性ケイ素摂取群16症例(平均年齢±標準偏差:67.94±8.50歳)および水溶性ケイ素非摂取群9症例(平均年齢±標準偏差:66.11±11.83歳)が評価された。尚、評価された症例には水溶性ケイ素非摂取群には男性9例(平均年齢±標準偏差:63.89±9.29歳)、女性7例(平均年齢±標準偏差:73.14±3.08歳)を含み、水溶性ケイ素非摂取群には男性5例(平均年齢±標準偏差:63.80±14.34歳)、女性4例(平均年齢±標準偏差:69.00±8.87歳)を含む。尚、両群の脱落症例は、中途で参加を取りやめる意思表示によるものおよび評価時期に来院しなかったものであり、有害事象を理由としたものは無かった。

水溶性ケイ素摂取群は、1日あたり約9mlの水溶性ケイ素(umo濃縮溶液,8.37mg/mL水溶性ケイ素溶液:株式会社APAコーポレーション)を6ヶ月間飲用摂取した。また、通常の食事・運動療法を同時に実施した。水溶性ケイ素非摂取群は、水溶性ケイ素の摂取は行わず、通常の食事・運動療法のみを実施した。

本試験の開始前と3か月経過時、試験終了時に、身長(cm)、体重(kg)、BMI(Body Mass Index, kg/m2)、腹囲(cm)、収縮期血圧(mmHg)、拡張期血圧(mmHg)の計測を行った。さらに血液検査によって4型コラーゲン(ng/mL)、ヒアルロン酸(ng/mL)、プロトロンビン時間(%)、PAI-1(ng/mL)、血清アミロイド(μg/mL)、ペントラキシン3(ng/mL)、アディポネクチン(μg/mL)、インターロイキン6(pg/mL)、レプチン(ng/mL)、高感度CRP(mg/dL)、アルブミン(g/dL)、総ビリルビン(mg/dL)、BTR、eGFR(mL/min/1.73m2)、総コレステロール(mg/dL)、HDLコレステロール(mg/dL)、LDLコレステロール(mg/dL)、中性脂肪(mg/dL)、動脈硬化指数、AST(U/L)、ALT(U/L)、γ-GTP(U/L)、ChE(U/L)、白血球(/μL)、ヘモグロビン(g/dL)、血小板(/μL)、総ケトン体(μmol/L)、空腹時血糖(mg/dL)、HbA1c(%)、インスリン(μU/mL))、インスリン感受性(HOMA-R)について評価した。また自覚症状評価のためのアンケート調査としてSF8 Health Surveyスタンダード版(SF-8)を実施した。これに加えて、開始前および試験終了時に内臓脂肪面積(cm2)についても評価した。

得られたデータについて、いずれもSPSS ver22.0ソフトウェアを用いて統計解析を行い、その有意水準は5%とした。また本研究は愛知医科大学医学部倫理委員会にて承認された上で、被験者からのインフォームドコンセントを得て実施した。

2.結果

 体重およびBMIについて、3か月経過時、試験終了時の何れでも、ケイ素摂取群のほうが有意に改善していた(図1-2)。アディポネクチンについて、3か月経過時にケイ素非摂取群では有意に減少していたが、試験終了時では有意な差は無かった(図3)。また、腹囲、PAI-1、ChE、については3か月経過時には有意な差は無かったものの、試験終了時には何れもケイ素摂取群のほうが有意に改善していた(図4-6)。またASTについては、試験終了時にケイ素摂取群のほうが改善する傾向にあった(図7)。内臓脂肪面積については、統計上の有意な差はなかったが、ケイ素摂取群では試験終了時に減少していたのに対して、ケイ素非摂取群では増大していた。尚、本試験において、試験終了時にケイ素摂取群で悪化した項目は見られなかった。SF-8については、有意な差が見られた項目は無かった。また、両群共に臨床的な有害事象は発生しなかった。

3.考察

 まず体重およびBMIは水溶性ケイ素を摂取することで、早期から有意な改善が見られていた。このことは、過去に報告された動物試験の結果と合致しており、水溶性ケイ素が通常の食事・運動療法における減量効果において、上乗せ効果をもたらす可能性を示唆している。特に体重では、水溶性ケイ素非摂取群に対して水溶性ケイ素摂取群では平均約3キログラムの減量効果を示しており、BMIも大きく減少している。既述したように食事・運動療法の長期的継続が困難であることを考慮すると、上乗せ効果を期待して水溶性ケイ素を経口摂取することは、NAFLDおよびNASHなどの患者に対して有益であると考えられた。また試験終了時には有意差はないものの、内臓脂肪も減少しており、これを反映するように有意に腹囲は減少していた。また臨床面でも、肝機能を示す項目の内、ChEおよびASTが改善していた。ChEは肝臓の蛋白質合成能力、脂質代謝の亢進などを反映するが、特に脂質代謝について高脂肪食摂取マウスに対する報告とも合致している。さらにASTは肝臓のみならず心筋や骨格筋、赤血球などにも広く存在していることから、水溶性ケイ素が血管へ好影響を及ぼすとする各種の報告と合致しているものと考えられた。またPAI-1は線溶系の活性化における状態を反映するが、水溶性ケイ素が血管弛緩作用を示すとされる報告とも合致しており、血栓症などのリスクを軽減させているとも考えられたことから、体重の減少作用やアディポネクチンの変化と合わせて糖尿病への効果も期待される。更に、試験期間を通じて、両群の何れにおいても臨床的な有害事象は観察されず、ヒトへの水溶性ケイ素の経口投与は安全性があると考えられた。これらの結果より、生活習慣病合併脂肪肝に対する水溶性ケイ素の経口摂取は、一定の有用性を持つと考えらえた。

 一方、自覚症状については、統計的な有意差は無かった。その理由としては、本試験は重篤な患者を対象としておらず、また症例数が少なかった点が挙げられる。SF-8は国勢調査のような大規模調査や、サンプル数の大きい集団レベルでの比較調査において有用であることが報告されている9)が、小数例評価については尺度的な限界があった可能性が高い。またその目的が健康関連QOL(HRQOL: Health Related Quality of Life)を比較することであるため、比較的軽症例が多かった本試験においては、十分な評価ができなかった可能性が高い。

以上に加えて、全体として水溶性ケイ素摂取群は、水溶性ケイ素非摂取群に比べて、有意ではなかったとしても、血液検査の値などで平均値としては改善している症例が多く見られた。したがって、今後、より大規模な研究によって、水溶性ケイ素摂取による生活習慣病(特に、NAFLDおよびNASH)への有効性が示される可能性があると考えられる。

また、今回の試験においては、1日1回(約9ml)の投与としたが、水溶性ケイ素の排出能が、比較的速やかであり、その血中濃度のピークが摂取後2時間程度である10)ことから、最適な量・投与タイミングについても検討する必要があると考えられる。これらを踏まえて、水溶性ケイ素経口摂取の大規模且つ更なる研究が待たれると考えられた。

結論

本試験の結果からは水溶性ケイ素を毎日経口摂取することによって、食事・運動療法に有意な上乗せ効果が得られ、有害事象も皆無であった点で有用と考えられた。

参考文献

1) Jugdaohsingh R, Tucker KL, Qiao N, Cupples LA, Kiel DP, Powell JJ. Dietary silicon intake is positively associated with bone mineral density in men and premenopausal women of the Framingham Offspring cohort. J Bone Miner Res. 19(2):297-307, 2004.

2) 河村洋子、横田康成、野方文雄、寺沢充夫、上条中庸、岡田憲己. ケイ素摂取によるラットの骨・血管の応力ひずみの解析. 信学技報 114(51):31-36, 2014.

3) 戸田嗣人、永田雅史、松村美沙、川合基之、吉野伸. 非晶質ナノシリカの免疫系に及ぼす影響. 日本毒性学会学術年会 41.1(0):P-202, 2014

4) 諸澤瑛、岡本博、米村重信、堤康央、河合裕一、小野寺章、屋山勝俊、田中敦士、久野秀太、岩崎綾香、田鍋奈巳、根津菜摘、宝諸あい. 非晶質ナノシリカは細胞内遊離カルシウムイオン依存的に血管を弛緩する. 日本毒性学会学術年会 39.1(0):P-141, 2012.

5) Rinde M, Kupferschmidt N, Iqbal MN, Robert-Nicoud G, Johnston EV, Lindgren M, Bengtsson T. Mesoporous silica with precisely controlled pores reduces food efficiency and suppresses weight gain in mice. Nanomedicine (Lond). 2020 Jan;15(2):131-144.

6) 杉田和俊、川合麻美、白井明志. 高脂肪食負荷マウスにおける水溶性ケイ素の脂肪肝抑制作用および糞臭低下作用. 獣医畜産新報 68(11):843-847, 2015.

7) 今一義、渡辺純夫. 脂肪肝と糖尿病の最前線. 日本内科学会雑誌 103(12): 3118-3125, 2014.

8) 工藤篤志、菊本東陽、石澤奈緒子、秋吉史博、吉岡成人. 糖尿病教育入院後の運動継続状況と血糖コントロールの関係. 理学療法学Supplement 2004(0): D1227-D1227, 2005.

9) 福原俊一、鈴鴨よしみ. 健康関連QOL尺度‐SF-8とSF-36. 医学の歩み 213:133-6, 2005.

10) Jugdaohsingh R, Anderson SH, Tucker KL, Elliott H, Kiel DP, Thompson RP, Powell JJ. Dietary silicon intake and absorption. Am J Clin Nutr. 75(5):887-93, 2002.

図1 体重(kg)の経時的変化

開始時にくらべて、3か月経過後、6か月経過後の何れでも、水溶性ケイ素摂取群の方が有意に体重が減少していた。

図2 BMI(kg/m2)の経時的変化

開始時にくらべて、3か月経過後、6か月経過後の何れでも、水溶性ケイ素摂取群の方が有意にBMIが改善していた。

図3 アディポネクチン(μg/mL)の経時的変化

水溶性ケイ素非摂取群では、3か月経過後で有意にアディポネクチンが減少していた。

図4 腹囲(cm)の経時的変化

水溶性ケイ素摂取群では、6か月経過時点で有意に腹囲が減少していた。

図5 PAI-1(ng/mL)の経時的変化

水溶性ケイ素摂取群では、6か月経過時点で有意にPAI-1が減少していた。

図6 ChE(U/L)の経時的変化

水溶性ケイ素摂取群では、6か月経過時点で有意にChEが改善していた。

図7 AST(U/L)の経時的変化

水溶性ケイ素摂取群では、6か月経過時点でASTが改善する傾向にあった。

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