高脂肪食負荷マウスにおける水溶性ケイ素の脂肪肝抑制作用および糞臭低下作用
杉田和俊, 川合麻美, 白井明志、高木敬彦, 後藤純雄, 浅井史敏
獣医畜産新報 JVM Vol.68 No.11, 2015年11月号
843-847頁
原著
高脂肪食負荷マウスにおける水溶性ケイ素の脂肪肝抑制作用および糞臭低下作用
杉田和俊*1 川合麻美*2 白井明志*2 高木敬彦*1 後藤純雄*1 浅井史敏*2
採択:2015年6月11日
要約
本研究では高脂肪食を負荷したC57BL/6NCr マウスにおける肝障害ならびに糞中インドール濃度に対する水溶性ケイ素の補給が及ぼす効果を検討した。高脂肪食(60% kcal)の9週間負荷により肝の脂肪変性および糞中インドール濃度の上昇が惹起された。水溶性ケイ素の7週間投与は肝臓の脂肪変性を軽減し,糞中インドール濃度の上昇を有意に抑制することが示された。
キーワード:水溶性ケイ素,高脂肪食,インドール,糞臭,マウス JVM Vol.68No.11, 843-847
ケイ素(Si:原子番号14)は,骨の形成に必須であること2,4),および,欠乏症を発生させると結合組織と骨組織の異常が出現すること1.6) から必須微量元素と考えられている元素であり,生体において骨,皮膚,動脈,毛,爪といった結合組織に高濃度に分布していることが知られている3)。ケイ素は,卵巣を除去したラットにおいて骨量の減少を抑制することから5),閉経後の骨粗鬆症を予防するサプリメントとして使用されているが,生活習慣病に対する効果については不明な点が多い。本研究では,水溶性ケイ素の生活習慣病,特に脂肪肝に対する効果ならびに糞臭などの悪臭に対する効果を,高脂肪食を負荷したマウスにおいて検討した。水溶性ケイ素は,高純度水晶原石を, 2000℃を超える高温度で気化したケイ素成分と特定のケイ酸植物線維の炭化剤を特殊溶解蒸気釜で処理し,抽出したケイ素と酸素の化合物のケイ素液である。
*1 Kazutoshi SUGITA,Yukihiko TAKAGI & Sumio GOTO:麻布大学獣医学部公衆衛生学第一研究室
〒252-5201 神奈川県相模原市中央区淵野辺1-17-71
* 2Asami KAWAI, Mitsuyuki SHIRAI & Fumitoshi ASAI:麻布大学獣医学部薬理学研究室,
責任著者:白井明志E-mail shirai@azabu-u.ac.jp
2. 材料および方法
1)使用動物
実験には,日本エスエルシー株式会社より購入した雄性C57BL/6NCrマウスを使用した。動物は,SPF動物飼育室(室温21±2℃, 湿度55±5℃, 12 時間明暗周期)で飼育した。普通食として標準ラット固形飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業株式会社),高脂肪食としてラード由来60%エネルギー固形飼料(DIO/60% Energy F/Fat PD Blue:58Y1,日本エスエルシー株式会社)を用いた。すべての動物実験は麻布大学動物実験委員会の承認を得た。
2) 被験物質
実験には、水溶性ケイ素濃縮溶液(umo濃縮溶液(8.37 mg/mL 水溶性ケイ素溶液);株式会社APAコーポレーション)を使用した。投与方法は,給水瓶中の水道水に添加して飲水投与した。飲料水への水溶性ケイ素濃縮溶液の添加量は,低用量群(Si低用量群)では1% (v/v),高用量群(Si高用量群)では10% (v/v)とした。
3) 実験プロトコール
C57BL/6NCrマウスを、①対照群(普通食+水道水, n=12),②高脂肪食+水道水群(高脂肪食+水道水,n=12),③高脂肪食+ Si低用量群(高脂肪食+水溶性ケ
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イ素83.7μg/mL 含有水道水, n=11), ④高脂肪食+ Si高用量群(高脂肪食+水溶性ケイ素837μg/mL 含有水道水, n=12)の4群に群分けした。高脂肪食は5週齢から給与し,水溶性ケイ素は7週齢から投与した。実験期間中,摂餌,飲水は自由摂取とし,毎週,体重,摂餌量および飲水量を測定し,14週齢で試験を終了した。
4)採血と肝臓採取
投与期間終了後,12時間の絶食を行い,ペントバルビタールナトリウム(共立製薬株式会社)を用いて麻酔し, 腹部大静脈より抗凝固剤としてヘパリンナトリウム(田辺三菱製薬株式会社)を用いて採血し,遠心分離(3000 rpm, 15 min)によって血漿を分離した。
過量のペントバルビタールにより安楽死させた後,肝臓を採取した。重量を測定した後,10%中性緩衝ホルマリンに浸漬した。また,大腸内に貯留している新鮮な糞便を無菌チューブ内に採取し,糞臭成分の測定まで冷凍保存(-20℃)した。
5) 血液生化学検査
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST), アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),血糖(Glu), 中性脂肪(Tg),総コレステロール(TC)およびリン脂質(PL)を自動分析装置 JCA-BM2250(日本電子株式会社)を用いて測定した。
6) 肝臓の病理組織学的検査
剖検の際に採取した肝臓は,常法に従って薄切切片を作製した。肝臓切片はヘマトキシリン-エオジン染色(HE染色),脂肪染色(オイルレッドO染色)を行った。
7)糞中インドール濃度測定
糞中のインドールを固相マイクロ抽出(solid phase micro extraction:SPME)-GC/MSを用いて測定した。約20mg の糞試料を2mLバイアルに秤取後,テフロンセプタム付のキャップで密栓し,分析直前まで再度冷凍保存(-20℃)した。ポリジメチルシロキサン100μm膜厚のSPMEファイバーを用いて,バイアル内のガスを40℃で30分間吸着させ,これをGC/MS (Agilent GC7890/ MSD5975C) を用いて測定した。
8)統計学的解析方法
結果は平均値±標準誤差で示した。統計学的解析を要するデータについては,一元配置分散分析を行い,群間に差がみられたものについてはTukeyの多重比較検定を行った。p<0.05の場合に統計学的有意差があるとした。
3.成績
1)体重,摂餌量および飲水量の推移
実験期間中,高脂肪食+水道水群では対照群に比べ9週齢から14週齢において有意な体重の増加がみられ,食餌誘導性肥満を呈した。高脂肪食+ Si高用量群は高脂肪食+水道水群とほぼ同様の体重増加を示したが,高脂肪食+ Si低用量群では体重増加が抑制される傾向にあった(図1)。
高脂肪食を投与したマウスでは,対照群に比べて摂餌量は増加,飲水量は減少する傾向がみられた。また、飲水量は,
高脂肪食+Si低用量群および高脂肪食+ Si高用量群では高脂肪食+水道水群に比べ減少する傾向がみられた。この原因として、水溶性ケイ素の苦味による影響が考えられる。
2)血液生化学検査
Glu, Tg, TC および PLは高脂肪食を給与した群では対照群に比べ有意に増加した。ASTおよび ALTは,有意ではないものの高脂肪食を給与した群では対照群と比較して高値を示す傾向がみられた。高脂肪食+Si低用量群および高脂肪食+ Si高用量群のASTおよび ALTを高脂肪食+水道水群の値と比較すると,それぞれ高脂肪食群+水道水よりも低値を示していた(表1)。
3) 肝臓の重量および病理組織学的所見
肝臓重量は、高脂肪食+水道水群で対照群に比べ有意な増加がみられた。高脂肪食+ Si低用量群では,対照群との比較では統計学的に有意な差はみられず,高脂肪食+水道水群と比較した場合も有意ではないものの低値を示した(図2)。
対照群の肝臓では異常な変化は認められなかった(図3A)。高脂肪食+水道水群では,肝細胞の脂肪変性が小葉中心性に中程度にみられた(図3B)。これに対し、高脂肪
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図1 体重の推移
データは、平均値±標準誤差で示した。
a, b:異なる英文字間で有意差あり(p<0.05)。
図2 肝重量の変化
データは,平均値±標準誤差で示した。a,b:異なる英文字間 で有意差あり(p<0.05)。
表1 血液生化学検査
データは,平均値±標準誤差で示した。a,b:異なる英文字間で有意差あり(p<0.05)
図3 肝臓の病理組織学的解析(オイルレッドO染色)
A:対照群
B:高脂肪食+水道水群
C:高脂肪食+ Si低用量群 100yum
D:高脂肪食+ Si高用量群
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図4 糞中インドール濃度
データは、平均値±標準誤差で示した。a,b : 異なる英文字間 で有意差あり(p<0.05)。
食+ Si高用量群では高脂肪食+水道水群と同様の脂肪変性がみられたが(図3D),高脂肪食+Si低用量群では小葉中心性および散在性/瀰漫性にごく軽度から軽度にしか みられなかった(図3C)。
4)糞中インドール濃度
高脂肪食を投与したマウスでは,糞便中のインドール濃度は対照群に比べ2倍ほど高かった。一方,高脂肪食+ Si低用量群および高脂肪食+ Si高用量群の糞中インドール濃度は高脂肪食+水道水群と比較すると有意な低値を示し,対照群とほぼ同程度であった(図4)。
4.考察
本研究において、マウスへの高脂肪食負荷は肝重量を増加させるとともに肝細胞では脂肪変性が引き起こされ脂肪 肝を惹起させていた。低用量の水溶性ケイ素の投与(水溶性ケイ素 83.7μg/mL 含有水道水を飲料水として給与)は, 肝重量の増加を抑制し,肝細胞における脂肪変性は小葉中心性および散在性/瀰漫性にごく軽度から軽度にしかみら れなかったことから,高脂肪食負荷による脂肪肝を予防する可能性が示唆された。しかしながら,高用量の水溶性ケイ素の投与(水溶性ケイ素 837μg/mL含有水道水を飲料水として給与)では,肝重量の増加抑制,および,脂肪肝の予防作用が認められず,水溶性ケイ素の効果に用量依存性がみられなかったことから,今後の研究において至適用量ならびに作用機序について検討する必要がある。
また,今回の研究において,高脂肪食負荷により糞中インドール濃度が増加し,このインドール濃度の上昇を水溶性ケイ素が用量依存的に抑制することが明らかになった。作用機序については今後の検討課題であるが,水溶性ケイ素には軽度の抗菌作用があることから,インドール産生菌に対する抗菌作用を介した可能性が考えられる。これらの成績よりインドールは悪臭の主成分の1つであることから,水溶性ケイ素により糞臭低下作用だけでなく口臭や体臭を軽減することが期待される。
引用文献
1) Carlisle.E.M. (1972):Science 10,178,619-621.
2) Carlisle,E.M. (1981) :Calcif. Tissue Int.239,333-334.
3) Jugdaohsingh,R. (2007) : J. Nutr. Health Aging. 11.99-110.
4) Nielsen,F.H. & Sandstead,H.H. (1974) : Am. J. Clin. Nutr. 27, 515-520.
5) Rico, H., Gallego-Lago.J.L., Hernández, E.R. et al. (2000): Calcif Tissue Int. 66, 53-55.
6) Schwarz, K. & Milne,D.B. (1972) :Nature 239, 333-334.
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Effect of Water-soluble Silicon on Liver Damage and Fecal Odor in High-fat Diet-fed Mice
Kazutoshi SUGITA *1. Asami KAWAI*2, Mitsuyuki SHIRAI*2, Yukihiko TAKAGI*1. Sumio GOTO *1, Fumitoshi ASAI * 2
*1Laboratory of Veterinary Public Health I, School of Veterinary Medicine, Azabu University.
Sagamihara, Kanagawa 252-5201, Japan.
*2 Laboratory of Veterinary Pharmacology. School of Veterinary Medicine, Azabu University
Summary
The present study was performed to examine the effects of dietary supplementation with water-soluble silicon on the fecal indole level and liver damage in C57BL/6NCr mice fed a high-fat diet. Increases in fecal indole levels and fatty degeneration in the liver were observed in mice fed the high-fat diet (60% kcal) for 9 weeks. Seven-week supplementation with water-soluble silicon attenuated the liver damage, and significantly and dose-dependently reduced fecal indole concentrations.
Key words: water-soluble silicon, high-fat diet, indole, fecal odor, mice
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