ブロイラーにおける水溶性ケイ素投与による
肉質改善および糞尿臭低下の作用
山本純平, 杉田和俊, 銘苅 愛, 小林久人, 良永裕子,明志, 浅井史敏
獣医畜産新報 JVM Vol.70 No.4, 2017年4月号
279-282頁
原著
ブロイラーにおける水溶性ケイ素投与による
肉質改善および糞尿臭低下の作用
山本純平*1 杉田和俊*2 銘苅 愛*3 小林久人*3 良永裕子*1 高木敬彦*2 白井明志*4 浅井史敏*4
採択:2016年10月31日
要約
本研究ではブロイラーにおける水溶性ケイ素の7週間飲水投与の肉質ならびに糞尿中インドール濃度に対する効果を検討した。 ムネ肉ではセリンおよびアラニンが, 対照群と比較して水溶性ケイ素低用量 (1%) 群で有意 (ρ< 0.05 ) に増加した。ササミ肉ではアスパラギン酸, スレオニン, グリシンおよびアラニンが, 対照群に比べて高用量群 (5%) で有意な (ρ< 0.05 ) 増加がみられた。また, 糞尿中インドール濃度は, 水溶性ケイ素投与により用量依存的に減少する傾向がみられた。本研究結果より, ブロイラーにおいて水溶性ケイ素の補給が肉質改善および糞尿の悪臭低下に有用である可能性が示された。
キーワード:水溶性ケイ素, 肉質, 糞臭, ブロイラー, 遊離アミノ酸
1. はじめに
ケイ素 (Si:原子番号 14) は生物界に最も多く存在する元素の1つであり, 生体内では皮膚や骨に比較的多く分布する2)。ケイ素は必須栄養素であるが, 加齢とともに体内のケイ素含有量は減少する。卵巣を除去したラットにケイ素を投与すると骨量の減少を抑制することから3), ヒトでは閉経後の骨粗鬆症を予防するサプリメントとして使用されている。我々は先の研究において, 高脂肪食を負荷したマウスにおいて, 水溶性ケイ素の補給が,糞臭低下作用ならびに脂肪肝抑制作用を示すことを報告した4)。本研究では, 水溶性ケイ素を添加した飲水を, 食用動物であるブロイラーに初生から7週齢まで給与し, ブロイラーにおける肉質改善および糞尿の悪臭低下作用を評価することを目的とした。
*’ Junpei YAMAMOTO & Yuko YOSHINAGA:麻布大学生命・環境科学部食品分析化学研究室
〒252-5201 神奈川県相模原市中央区淵野辺 1-17-71
*2 Kazutoshi SUGITA & Yukihiko TAKAGI:麻布大学獣医学部公衆衛生学第一研究室
*3 Ai MEKARU & Hisato KOBAYASHI:一般財団法人生物科学安全研究所
〒252-0132 神奈川県相模原市緑区橋本台3-7-11
*4 Mitsuyuki SHIRAI & Fumitoshi ASAI : 麻布大学獣医学部薬理学研究室
責任著者:白井明志 E-mail shirai@azabu-u.ac.jp
2. 材料および方法
1) 動物
本研究の動物実験は一般財団法人生物科学安全研究所 (神奈川県相模原市) において実施し, 実験プロトコールは生物科学安全研究所および麻布大学の動物実験委員会の承認を得た。
実験には, 外観観察により異常がみられなかった30羽のブロイラー (チャンキー) 初生雛雄 (株式会社森孵卵場) を供試した。平飼い鶏舎内に, 木製のメッシュ型仕切り板を用いて3区画を設置し, 1区画 (0.72 〜 2.25 m2) に10羽を収容して群飼した。
また, 電熱式ブルーダーおよび家畜用保温電球を用いて給温した。実験動物用敷料「ベータチップ」(日本チャールス・リバー株式会社) を用い, 糞等により汚染した部分は, 適宜除去して新しい敷料を追加した。照明は, 終日点灯とした。
初生から3週齢 (22日齢) まではブロイラー肥育前期用配合飼料 (チキンNo.1, 日本配合飼料株式会社) , 3週齢から7週齢 (50日齢) まではブロイラー肥育後期用配合飼料 (チキンNo.3, 日本配合飼料株式会社) を, トレーおよび筒型給餌器を用いて不断給与した
2) 実験プロトコール
供試雛は, 導入時の体重を基に層別無作為化により1グループ10羽ずつ対照群 (無添加の水道水), 水溶性ケイ素濃縮溶液 (umo, 株式会社APAコーポレーション, ケイ素濃度 = 8mg/mL) の低用量群 [1% (v/v) 添加] および高用量群〔5% (v/v) 添加] に割り付けた。また, 初生 (群分け) 時を, 0日齢とした。
水溶性ケイ素濃縮溶液は水道水にて 1% (v/v) および5% (v/v) に希釈し, 1日齢より貯留式飲水器を用いて自由に摂取させた。
3) 一般観察
初生から7週齢 (50日齢) までの7週閏, 飲水量および水溶性ケイ素投与量, 一般状態 (活動量, 食欲, 羽毛の状態および糞便性状), 体重, 飼料摂取量, 飼料要求率 [期間中の1羽当たりの飼料摂取量 (g/羽) / 期間中の平均増体量 (g) ] を観察または測定した。
4) 肉質成分分析
7週齢 (50日齢) 時に, 生存している全羽を放血殺して皮を取り除き解体し, ササミ肉は全量, ムネ肉およびモモ肉はササミ肉とほぼ同量を, 個体ごとに採取した。部位ごとにフードプロセッサーを用いてミンチ状態にし, ポリエチレン製の気密袋に入れて空気を抜いて密封し, 肉質成分分析まで -70℃以下で凍結保存した。
試料のメタノール抽出物を濃縮後, 水とエーテルで二層分配して脱脂した。得られた水溶液をニンヒドリン・プレカラム法を用いたアミノ酸分析システム (JLC-500 / V-2, 日本電子株式会社) に付し, 各種遊離アミノ酸の定量分析を行った。
5) 糞尿中の悪臭成分分析
水溶性ケイ素投与開始前 (1日齢) は供試動物全体から, 7週齢 (49または50日齢) 時は1羽ずつケージに収容して個体ごとに糞便 (尿を含む) を採取した。糞便は, 排泄後概ね1時間以内に採取し, 混合後2分割してガラス容器に入れて密閉し, 悪臭成分分析まで -70℃以下で凍結保存した。
糞尿中のインドールを固相マイクロ抽出 (SPME:Solid Phase Micro Extraction) -GC / MS を用いて測定した。約20mg の糞試料を2mL バイアルに秤取後, テフロンセプタム付のキャップで密栓し, 分析直前まで再度冷凍保存 (-20℃) した。ポリジメチルシロキサン100μm膜厚のSPMEファイバーを用いて, バイアル内のガスを40℃で30分間吸着させ, これをGC / MS (Agilent GC6890 / MSD5973, アジレント・テクノロジー株式会社) を用いて測定した。
6) 統計学的解析方法
結果は平均値±標準誤差で示した。統計学的解析を要するデータについては, 一元配置分散分析を行い, 群間に差がみられたものについては Tukeyの多重比較検定を行った。ρ値 < 0.05 の場合に統計学的有意差があるとした。
3. 結果
1) 一般観察
(1) 飲水量および水溶性ケイ素投与量
1羽当たりの飲水量は, いずれの群とも水溶性ケイ素投与開始 (1日齢) から毎日増加し, 全期間 (7週間) では対照群および低用量群が約15,400 mL と同程度で, これらの2群より高用量群は約800 mL 多かった。飲水量から算出した全期間の1羽当たりの水溶性ケイ素投与量は, 低用量群1,234.2 mg, 高用量群6,490.3 mgであり, 投与量比は, 低用量群:高用量群 = 1:5.26 であった。
(2) 飼料摂取量および飼料要求率
観察期間中の平均飼料摂取量 (g / 羽) は, 対照群では7,325 g, 低用量群では6,826 g, 高用量群では 7,154 gと群間で有意差はみられなかった。また, 飼料要求率は, 対照群では1.625, 低用量群は1,565, 高用量群では1.627であり, 群間で有意差はみられなかった。
(3) 一般状態および体重
観察期間中, いずれの群においても活動量, 食欲, 羽毛の状態および糞便性状に異常はみられなかった。測定したいずれの時点の体重にも, 群間で有意差はみられなかった。
2) 肉質成分分析
7週齢ブロイラーのモモ肉では甘みおよびうま味に関する遊離アミノ酸の変化はみられなかったものの, ムネ肉およびササミ肉で甘みまたはうま味に関する遊離アミノ酸量の増加がみられた (表1, 2) 。ムネ肉ではセリンおよびアラニンで対照群と比較して低用量群で有意な増加が認められ, 高用量群では増加する傾向がみられた (表1) 。ササミ肉ではアスパラギン酸, スレオニン, グリシンおよびアラニンにおいて対照群に比べて高用量群で有意な増加が認められ, アスパラギン酸およびスレオニンでは濃度依存的な挙動がみられた (表2) 。
データは, 平均値±標準誤差で示した。
a.b : 異なる英文字間で有意差あり (ρ < 0.05) 。
データは, 平均値±標準誤差で示した。
a.b : 異なる英文字間で有意差あり (ρ < 0.05) 。
図1 7週齢ブロイラーの糞尿中インドール含量
データは, 平均値±標準誤差で示した。
3) 糞尿中の悪臭成分分析
d8 (d8-Toluene) を内標準物質として添加し, 測定対象物質について5 ng ~ 250 ngで検量線を作成し, 5 ng から 250 ng の間で直線性のあることを確認した。また, この検量線より, 本試験では定量下限値を 5 ng とした。
7週齢の糞尿中インドール濃度を図1に示した。対照群に比べ, 水溶性ケイ素投与群では用量依存的な糞尿中インドール含量の低下がみられた。
4. 考察
本研究に用いた水溶性ケイ素は, 高純度水晶原石を, 2,000℃を超える高温度で気化したケイ素成分と特定のケイ酸植物線維の炭化剤を, 特殊溶解上記釜で処理し, 抽出したケイ素と酸素の化合物のケイ素液である。水溶性ケイ素 1% (v/v) または 5% (v/v)をブロイラーに7週間連続飲水添加投与しても, 投与期間中いずれの用量群の個体にも一般状態に異常は認められなかった。このことは, サプリメントとして長期間投与しても水溶性ケイ素の安全性に問題はないことを示唆するものであった。
セリン, アラニン, スレオニンおよびグリシンは, 主に甘味を有するアミノ酸であり, アスパラギン酸はうま味に関連する成分として知られている1)。これらのことから, 水溶性ケイ素摂取ブロイラーのムネ肉では甘味が増加し, ササミ肉では甘味およびうま味が増加することが示された。また, 対照群に比してムネ肉では低用量群が, ササミ肉では高用量群が有意に変動したことから, 部位ごとに影響を受ける濃度が異なる可能性が考えられた。
糞尿中の悪臭成分分析では, インドール濃度が水溶性ケイ素の用量依存的に低下した。この成績は, 高脂肪食を負荷したマウスにおいて水溶性ケイ素が糞尿中インドール濃度を有意に低下した成績と合致した。本研究におけるブロイラー糞尿中インドール濃度には大きな個体差がみられた。この原因としては, 鳥類に特有な, 尿による糞の希釈が影響した可能性が考えられた。
以上の成績より, 水溶性ケイ素の食肉用鳥類におけるサプリメントとしての有用性が示唆された。
引用文献
1) 味の素株式会社 (2003):アミノ酸ハンドブック, 44-51, 工業調査会.
2) Jugdaohsingh,R. (2007):J. Nutr. Health Aging. 11, 99-110.
3) Rico,H., Gallego-Lago,J.L., Hernández,E.R. et al. (2000):Calcif. Tissue Int. 66, 53-55.
4) 杉田和俊, 川合麻美, 白井明志ほか (2015):獣畜新報 68, 843-847.
Beneficial Effect of Water-soluble Silicon on the Meat Quality and Fecal Odor of Broiler Chickens
Junpei YAMAMOTO *1, Kazutoshi SUGITA *2, Ai MEKARU *3, Hisato KOBAYASHI *3,
Yuko YOSHINAGA *1, Yukihiko TAKAGI *2, Mitsuyuki SHIRAI *4, Fumitoshi ASAI *4
*1 Laboratory of Food Analysis Chemistry, School of Life and Environmental Science, Azabu University,
Sagamihara, Kanagawa 252-5201, Japan
*2 Laboratory of Veterinary Public Health I, School of Veterinary Medicine, Azabu University,
Sagamihara, Kanagawa 252-5201, Japan
*3 Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology,
Sagamihara, Kanagawa, 252-0132, Japan
*4 Laboratory of Pharmacology, School of Veterinary Medicine, Azabu University,
Sagamihara, Kanagawa 252-5201, Japan.
SUMMARY
The present study was performed to examine the effects of dietary supplementation with the water-soluble silicon on the meat quality and fecal indole level of broilers. The levels of serine and alanine in the broiler breast meat of the 1% water-soluble silicon treated group were significantly higher than in the control (ρ < 0.05). Aspartic acid, threonine, glycine and alanine levels in the tender breast meat were significantly increased in the 5% water-soluble silicon-treated group compared with those of the control (ρ < 0.05). In addition, supplementation with water-soluble silicon tended to decrease the level of fecal indole in a dose-dependent manner. The current study demonstrated that the 7-week supplementation with water-soluble silicon had beneficial effects on the meat quality and fecal odor of broilers.
Key words : water-soluble silicon, meat quality, fecal odor, broilers, free amino acids